福岡地方裁判所 昭和41年(ワ)1399号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決理由〕一 事故の発生
原告が昭和四一年六月二四日午前八時五五分頃その所有にかかる乗用自動車(フォード五八年型)(福岡三さ九八)を運転して国道二〇二号線を西方から東方に向け進行中、福岡市姪の浜宮の前三、一〇五番地江島ノブ方先路上において一時停車したところ、折りから対向して進行してきた被告水上運転の二両連結の路面電車(一二〇二号)と激突し、自車を大破したことは当事者間に争いがない。
二 責任
1 被告水上
原告が本件事故当時前記自動車を運転して本件衝突地点から約一八メートル手前に差しかかつた際、本件衝突地点から約2.8メートル前方に軽四輪自動車が駐車し、右自動車の進路を塞いでいるのを認めると同時に、前方約七〇メートルを隔てた軌道上を被告水上運転の路面電車が対向して進行してくるのを認めたこと、そこで、原告は一旦は右駐車車両の右側を通り抜けて同車両の前方に出ようと考えたが、本件衝突地点道路の道路端から路面電車の軌道敷までの幅員が僅か約3.5メートルしかない上、原告の右自動車の幅が二メートルもあり、さらに当時右道路の左側には自転車二台が置かれていた外、通行人も数名あつたため、原告としてはこれらとの衝突を避けるのにどうしても路面電車の軌道敷内にはいらざるを得ず、少くとも軌道敷縁石に進んだが、前方からくる路面電車を見て、後退しようと考え、バックミラーで後方を見たところ、右自動車のすぐ後方約一メートルの地点に西鉄タクシー(運転者原壽典)が停車していたことは当事者間に争いがない。
<証拠>を綜合すると、本件事故が発生した道路は直線平担で見透しが良好であるが、姪の浜電停近くで交通量が多いのと路面電車軌道敷より北側部分の幅員が狭いので特に自動車等の運転に注意を要するところであり、公安委員会より速度制限時速三五キロメートルと追越禁止の交通規制がなされていること、右路面電車が進行していた軌道敷内については単線で軌道敷内を通行できる指定がなされていなかつたこと、原告は本件事故現場付近を右自動車を運転して時速約一〇キロメートルの速度で進行して本件衝突地点に差しかかつた際前示のように駐車中の自動車を避けて路面電車の軌道敷内に進入して停車したのに対し、被告水上は右路面電車を運転して時速約三〇キロメートルで進行していたが、本件衝突地点の手前あたりに来て横断歩道があり人通りも多いので時速二〇キロメートルに速度を落して進行し、本件衝突地点より約三〇メートル手前で軌道敷外を対向して進行する右自動車を発見したが、路面電車の方が優先するので右自動車が軌道敷外に停車すると思つていたところ、右自動車が本件衝突地点のところで突如軌道敷内に入り込んで来たのを認めたので直ちに急制動をかけたがまにあわず衝突し、右路面電車は本件衝突地点より約3.3メートル進んで漸く停車したこと、被告会社の社員である不老金之助が制動距離計算式に本件事故日時、天候、右路面電車の車号、容気圧力、制動種別、線路、軌条、乗員の計算条件をあてはめ右路面電車の時速二〇キロメートルにおける制動距離を測定した数値が19.8メートルであることが認められる。
右認定事実によれば、原告が被告水上運転の路面電車を発見したとき両者の距離が約七〇メートルであつて、その後原告が時速一〇キロメートル位で約一八メートル進行し本件衝突地点で停車するまでの間に、右路面電車は時速二〇キロメートル位で進行していたのであるから、その距離は三六メートル(時速三〇キロメートルであれば五四メートル)となり、原告が停車したとき右路面電車との距離は約一六メートルに過ぎないということになる。
そうすると、本件事故については被告水上が前方約一六メートルの地点に原告の自動車が停車したのを認め、慌てて急制動の措置をとつたのであるが、時速二〇キロメートルでは到底衝突を避けることができなかつたのであるから、同被告に過失があつたと断ずることはできない。むしろ、原告において自動車を運転するに際し路面電車の進行を妨げてはならなかつたというべく、このことは道路交通法第二一条の趣旨からも明らかである。
2 被告会社
前記のとおり、本件事故について被告水上の過失が認められない以上、爾余の点について判断するまでもなく、被告会社の責任を肯定することはできない。
三 従つて、その余の点については判断をするまでもなく、原告の本訴請求は理由がなく失当としてこれを棄却する。
(木本楢雄 富田郁郎 横田勝年)